大手塾の公開模試や、多くの中学入試問題では、冒頭に計算問題が出題されます。
「計算力は、算数の基本だから」
というわけです。
難関中学の算数対策にも、
「まずは、計算力をつけましょう。」
と、書いてあります。
ところが……
超難関中学の入試問題をみると、冒頭から応用問題が出題されていたりします。
いわゆる、計算問題がありません。
出題されている学校でも、計算問題は、1~2問。
公開模試のように、3問も4問も出題されません。
「ははあ、その分、応用問題の計算量が多いにちがいない」
と思って、解いてみると、それほどでもない。
「あれほど計算力が大切、大切と言われているのに、これは一体、どういうことか?」
「毎日、毎日、計算練習をしてきたのは、何のためだったのか?」
と、首をかしげることって、ありませんか?
そうなのです。
一口に「計算力」と言っても、そこには様々な意味が、込められているのです。
いわゆる、「計算のための計算問題」というのは、あらかじめ、問題文に計算式が掲げられています。
この場合、受験生に求められる能力は、
です。
これは、日々の計算ドリルによって、達成できます。
中には、
が求められるものも、あります。
これらも、日々の計算練習で、達成できるでしょう。
ところが、算数で求められる「計算力」は、これがすべてではありません。
応用問題を解く中で、必要な計算をこなしていく能力が大切です。
この計算式は、問題文には書いてありません。
自分で式を立てる必要があります。
ここで、差がつくのです。
ある人は、問題を解きながら、順番に一つ一つ計算をして、答えを求めるでしょう。とても時間がかかります。
また、ある人は、問題を解き切るまでの全体を見渡しながら、なるべく計算がラクになるように、式の立て方、計算の順序を工夫するでしょう。
つまり、与えられた計算式に対して、ゴリゴリ計算する、あるいは「計算の工夫」を行うのではなく、自分から「計算の工夫」がしやすいように、式を立てるのです。
この能力こそが、超難関校で求められる「計算力」です。
そう言われても、今一つピンとこないかもしれません。
では、スポーツにたとえてみましょう。
たとえば、サッカー。
ボールをキープしている選手が、相手のゴールに向かって疾走しています。
もちろん、プロのサッカー選手であれば、ものすごいスピードで走っていることでしょう。
でも、オリンピックの100m走の選手の走り方とは、明らかに違うと思いませんか?
100m走の選手は、とにかく速く走ります。
目いっぱい「ロケットスタート」をきり、その後も、走れば走るほど、加速していく感じです。
そして、まっすぐ前を向き、まっすぐ走っていきます。
自分が走るべきコースは、あらかじめ設定されているので、何も迷いはありません。
速く走ることが、すべてです。
これに対して、サッカー選手はどうでしょうか?
サッカー選手は、走りながら、周囲をキョロキョロ見回しています。
速度も、全力でダッシュしたかと思うと、少し減速し、再びダッシュしたかと思うと、突然向きを変えたりします。
「もしかして、1歩ずつ考えながら走っているのか?」
と思うときもあります。
それはそうですよね。
ゴールまで一直線に走りたくても、途中には、相手チームの選手が立ちはだかり、ディフェンスします。
味方チームの選手に、パスを出す必要もあります。
グラウンドのどこに誰がいるのか、常に把握していなければなりません。
状況がつかめるまでは、全力で走ることより、「様子を見る」ことの方が、大切かもしれません。
状況次第では、走る方向を変えなくてはなりません。
ですから、サッカー選手は、走るコースを自分で考えながら走るし、やみくもに速く走ればよいというものでもないのです。
サッカー選手の能力は、100m走のタイムでは測れないし、サッカー選手が100m走の練習をしても、あまり意味はないでしょう。
この、スポーツ選手の走り方の違いを、算数の計算にあてはめてみましょう。
計算問題を素速く解くのは、100m走に似ています。
計算すべき式は与えられていて、それをいかに速く、正確にやり遂げるかの競争です。
これに対し、応用問題を解くときの計算は、サッカー選手の走り方に似ています。
正解(ゴール)めざして、全体像を思い描きながら、どのような式を立て、どのような順序で計算すればよいか、絶えず考えています。
ですから、応用問題を解くための「計算力」は、計算ドリルで計算練習を積んでも、鍛えられるものではありません。
もちろん、計算ドリルで、ゴリゴリ計算が素速くできるようにしておく必要はありますが、それだけでは、不十分です。
「式の立て方の工夫」も、練習しておく必要があるのです。
それこそが、応用問題を解くときに「使える」計算力なのです。
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